日経記者として12年間働いた後、2021年4月にバンライファーになりました。愛車・フルエール号に乗って、コーチング業や執筆業をしながら全国をめぐっています。 https://fullyell.com/
能登半島の港町で「泊まれる駐車場」をキャッチコピーとする宿を見つけました。その名も「田舎バックパッカーハウス」(石川県穴水町)。全国からバン生活を楽しむ人が集まっています。なぜこの施設を開業したのか、経営する中川生馬さんに聞きました。
なかがわ・いくま 1979年東京生まれ。オレゴン大学卒業後、ソニーなどで会社員として約10年間働いた後、バンライファーに。2013年5月に石川県穴水町に家族と移住。 東京のベンチャー企業などの広報業務に関わりながら、バンライフの情報を発信している。
中川さん、以下略)バンで旅する人が長期滞在できる民家です。2019年の12月に開業しました。家の前に車5台分ほど停めるスペースがあります。家の1階には共同で使えるキッチンやリビング、シャワー、洗面台、トイレ、ワーキングスペースなどがあり、寝室はご自身のキャピングカーを使っていただきます。2階には寝泊まりもできるシェアハウスもあり、1ヶ月以上滞在する方に使っていただいています。
開業して1年半ほど経ち、多くの方にご利用いただいています。能登の旅の途中に立ち寄る方もいれば、3ヶ月ほど長期滞在する方もいます。旅人や地元の方が行き交う交流拠点になっています。
さまざまですね。ひとり旅をしている20代の方もいれば、仕事をしながらバンライフを楽しむ夫婦の方もいます。会社員のリモートワークの場所としても活用いただいています。都内のIT企業で働いている方が3週間ほど仕事の拠点としていたこともありました。長い方は3ヶ月滞在していた例もあります。車中泊や旅をテーマとするYouTuberも多いですね。他にも、子供と一緒に田舎暮らしを体験したいという親子連れも来ます。
個性的でユニークな方が多いです。例えば、お茶の世界を愛し1トントラックの荷台に古民家風の茶室を作って、各地でお茶の魅力を伝え広めている方も来ます。いい意味で『変わった人が集まる場』になっていますね。
みなさん思い思いに好きなことをやっています。田舎バックパッカーハウスが提供するものとしては、体験型のイベントが特に人気ですね。季節ごとに企画をしています。例えば夏では、ハウスに面している北七尾湾で地元の漁師さんと一緒に素潜り体験や魚釣りをし、自分でさばいて食べる洋上パーティーは好評です。カキ漁師体験では水揚げしたカキの汚れをはぎ取りきれいに洗い、食卓に上がるまでを実際に見てもらいます。カキ一粒がテーブルに出るまで、多くの工程がかかっていることを実体験として知ることができるんですよ!
私自身、2010年10月から約2年半、バックパッカーをして日本中を旅をしていました。元々は東京の企業で広報の仕事をしていましたが、都会の生活ではない生き方を探してみたいと思い、各地を見てまわろうと思ったのです。『移住先を探す』ことと『田舎暮らしを体感する』をテーマとしました。地図帳を広げて、聞いたことない田舎ばかり転々とめぐりました。
旅をしていると、テント泊ができる場所や、温浴施設などを毎日探さなければなりません。旅は楽しいですが、それでも毎日やっていると疲れてしまいますよね。旅先で仕事をしようと思っても、集中できる場所がなかなか見つからないということもあります。そうした経験から、旅人が滞在できる拠点があるといいと思いました。家の空間を快適に使えて、一時的に暮らせる場所があるととても助かるのではないかと考えたのです。
集まった人の交流を大切にしているのは、人は人と交流することで視野が広がると思うからです。私自身がバンライフを始めたきっかけも、人との出会いがあったからです。ここには旅人だけでなく、地元の椎茸の農家さんや漁師さんもきます。旅人と地元の人がここで出会い、交流することでお互いの視野が広がってほしいと思っています。自分自身が人と話すことが好きなので、やっていて楽しいということもありますね。
やはり自然の中での暮らしですね。海に行けば魚が獲れます。畑に出れば野菜が採れます。自然と人が融合し、共存している暮らし方ができます。必要なものを自給できる環境は素晴らしいと感じています。何があっても暮らしていけるという思いになれますよね。日本は小さな国ですが、ライフスタイルが地方によってガラッと変わります。自然環境を生かした生活の多様さと豊かさを旅をするなかで体感してきました。
よく『田舎にはなんにもない』と言われます。私はそうは思いません。例えば火を使おうと思えば、庭で焚き火もできるし家で薪ストーブもできます。山でキャンプファイアーもできます。都会の暮らしではキッチンで火を付けることくらいしかできないでしょう。火を一つとってみても、田舎の方が圧倒的に選択肢が多いと思うのです。宅配では例えばAmazonに注文すれば東京と同じように翌日に届きますし、ここからなら能登空港から1時間あれば羽田空港につけます。不便なことは思いあたりませんね。
第一は、人との出会いですね。バックパッカーで能登半島を旅しているとき、あるお茶屋の店主の方に出会いました。それ以来、手紙などで『今どこにいるの』とか『また会えたらいいね』といったやりとりが始まりました。他にも出会った方が『祭りの時にカメラで写真を撮る仕事をしてくれないか』とか『ブログを立ち上げるから手伝ってくれないか』といった話を持ちかけてくれました。能登の人たちは自分のことをいろいろ考えてくださっているんだな、嬉しいなと思ったのです!
もう一つは穴水町は移住先としてほとんど知られてないかったためです。私は人と違う道を行くことにおもしろみを感じます。移住先の候補として、徳島の神山町や上勝町、北海道洞爺湖、五島列島、大分の海岸線なども考えました。しかし、どこもそこそこ知られていました。穴水は誰も知らない、だからこそ面白いと思ったのです。
ライフスタイルは人それぞれでいいという思いです。今の時代は、都会で暮らさなくてもいいし、1ヶ所に定住しないといけないということもありません。インターネットがつながり、生活に必要なインフラも全国どこでも整っています。私たちはいろいろな固定概念に縛られていますが、固定概念をなくすことで選択肢が増え、多様なライフスタイルが実現できると考えています。
会社員であっても、都会での勤務生活だけではなく地方での田舎暮らしやバンライフなどあらゆる選択肢があるということを知って欲しいと思っています。いまだからこそ選べるライフスタイルではないでしょうか。
ひとつ言えるのは、感性が豊かになるということでしょうね。東京で暮らしていると、休みを使って自然のある場所に行かなければなりません。田舎で暮らしていると、家の窓から畑や海が見えて、例えばトマトが日に日に大きくなっているとか、景色が毎日違うとか、日常の変化が当たり前になります。そうした自然の移ろいの中で暮らすことで、感性が豊かになっていくのだと思います。
バンライフは加速的に伸びています。キャンピングカーの出荷台数のデータを見ると、はっきりしています。これまで懸念だった電気関係についても、電池やソーラーパネルの性能が上がったことで問題ではなくなってきました。インターネットも高速通信が全国どこでもできますよね。コロナで場所を問わない働き方が広まってきたことと、技術の進歩の両面が伸びている理由だと思います。
今後さらにバンライフは普及していくと考えています。トヨタやホンダ、ダイハツなど大手自動車会社の動きを見ても、生活できる車の投入を相次いで始めています。近年増えてる自然災害の面からも、生活できる車のニーズは高まっています。車はただの足なのではなく、より生活に入り込んだ存在になっていくと考えています 。
バンライフはよく、アメリカとかヨーロッパの方が進んでいると言われます。しかし海外生活が長かった私が思うのは、バンライフに必要なインフラは圧倒的日本が優れていると思います。泊まるところ一つとっても、道の駅、カーステイ、RV パークなど様々にあります。トイレもどこに行ってもきれいですし、温浴施設も各地にあります。そうしたインフラを工夫してつなげることでバンライフは一気に広がると思っています。
家に代表される『不動産』と、動く車などの『可動産(かどうさん)」が一緒に語られる未来です。家にしますか、それともバンにしますかと、ふたつを選べる未来が必ず来ると思っています。私は車が家になるという時代が必ずくると思ってるんです。その時代には、車を泊めて生活できる拠点が必要になります。それがバンライフステーションの役割だと思うのです。これからの「動く時代」の拠点作りを進めていきたいですね。地方をめぐる人が増え、気に入った旅先で定住し、また旅をするという未来を作っていきたいと思っています。
(聞き手:すけ)
取材の元記事はこちらより。
取材日:2021年7月23日
田舎バックパッカーハウスのサイトはこちら
日経記者として12年間働いた後、2021年4月にバンライファーになりました。愛車・フルエール号に乗って、コーチング業や執筆業をしながら全国をめぐっています。 https://fullyell.com/