今回ご紹介するのは、バンライフが浸透していない2019年ごろに連載がスタートした漫画「渡り鳥とカタツムリ(以下:わたカタ)」。
会社員生活に疲弊した主人公・雲平が、バンライフを行う絵本作家・渚つぐみと出会い、車中泊旅を通じて、変化する様子を描いた物語です。
今でこそ旅や生活のカテゴリーの1つに分類されるほど、知名度が高まってきたバンライフですが、当時はそれを題材にする漫画はほとんどありませんでした。
作者の高津マコトさんに制作のきっかけや想い、バンライフの魅力を伺いました。
10代から漫画家を夢見て、当時は25歳くらいでデビューすることを目指していました。
デビュー前は、花屋で働きながら漫画を描いていましたが、仕事との両立は想像よりも大変でした。
結局、デビューを果たせたのは2017年、36歳になったとき。
20年越しに夢が叶いましたが、諦めようと思ったことは何度もありました。
それでも思い描く漫画のキャラクターを描き始めると、彼らが訴えかけてくるんです。
「もうちょっと頑張れよ。」と。
諦めたい気持ちを奮い立たせてくれたのは、自分が描いたキャラクターたちでしたね。
2017年にデビュー作の連載がスタートし、少し落ち着いた2018年頃に、ワニブックスの編集の方から車中泊を題材にした漫画の企画をもらったことがきっかけです。
もともと、幼少期に家族でクルマ旅をしたことが度々あり、車中泊には懐かしい印象を持っていました。
当時はハイエースに布団を乗せてどこでも寝れるようにしたり、後部座席にテレビゲームを持ち込んで子どもの遊び場にしたりして、クルマ旅を楽しんでいましたね。
ところが、その時に担当編集者の方に教えてもらった車中泊は、僕の幼少期のときの記憶にあるそれとはまるで違っていました。単に旅先で道中にクルマで寝るだけではなく、自分の好きなものを詰め込んだ大人の秘密基地で生活をするものだったのです。
また、クルマも昔よりも種類が増えて、可愛いものばかり。
「是非描かせてください!」
二つ返事で、わたカタの連載がスタートしました。
とはいえ、タイトルを決めるにはすごく時間がかかりました。
見てすぐに内容が分かるような案も出たのですが、もう少し詩的なタイトルをつけたかったんです。
悩みに悩んだ末、「自由にあちこちを移動するワンダーフォーゲル(渡り鳥)」と「暮らしながら旅をして、怖がりのようでアウトドアな生き物=カタツムリ」を掛け合わせたタイトルが生まれました。
まさに、渡り鳥のようなつぐみとカタツムリのような雲平を表す言葉だと思います。
ただ、タイトルだけでは漫画の内容は伝わらないので、説明に苦労することもあります(笑)
バンライフの楽しさも発信していますが、主人公の雲平が昨日よりも新しい自分に出会い、成長する様子を描いています。
そして、雲平を社会人だった自分と重ね合わせて描いている部分もあります。
「このまま漫画家ではなく、花屋として生きていくのかな?」
これからの人生に何度も悩み、鬱に近い状態になったことがありました。
きっと、当時は自分への期待値を高く置いてしまって、自身を苦しめていたんだと思います。
けれども、僕は自分で決断をして、人生の楽しみを見つけることで変化してきました。
そんな姿が、雲平にも投影されているのかもしれません。
さらに、描き進めながら物語や自分自身と向き合っているうちに「わたカタは人との出会いで成長する話」と感じるようになりました。
例えば、バンライフをしながら海外をまわった夫婦と雲平が出会い、働く目的や人生で大切にしたいことを学び、気づく場面があります。
まさに、今までの当たり前を見つめ直す出会いによって、雲平が変化した瞬間でした。
また、巻を追うごとに雲平のクルマがカスタマイズされていき、使いやすくなっていきます。
自分が良いと思ったことを決めて、取り入れ、変わっていく様子をちょっとした場面にも取り入れていますね。
漫画を描くときは、自分の中にない言葉を使ってキャラクターに語らせることは絶対にしません。
執筆中に、情景やキャラクターの感情が想像できないこともありました。
そのまま頭で考えて思いついた内容で描き進めたり、動画などを観て情報収集したりする方法もあるでしょう。
けれども、その状態で描く絵は「漫画を描く義務感を第一優先にしている」状態で、知らないことを絵にする心苦しさがつきまといます。
だから、わたカタ執筆中は、漫画を描きながら旅に出て、時にはバンライフをして、取材をして、また漫画を描く。行き詰まるとまた旅に出る生活を繰り返していました。
今は自分の中にない言葉でも、現地に足を運び、浮かんでくる感情を味わいながら答え合わせするステップを大切にしています。こうすると、筆の動きがまるで違うんですよね。
まずは、Carstayのシェアサービスを利用することから始めました。
どのクルマもホルダーの熱量を感じ、大切に乗ろうと思えましたし、あまりにも素敵だったので思わず車両の購入も考えました。
シェアをしてみて、自分に合ったクルマを見つけるステップを踏めるところが良いですね。
バンライフで印象的だった出来事は、クルマに自転車を乗せて石和(いさわ)温泉へ旅をしたことですね。
街歩きには小回りが利く自転車を使い、車中泊や移動にはクルマに乗る。そんな旅は行ったことがない場所を楽しむためにぴったりだと感じました。
また、シェアしたクルマに乗り、城ヶ島を訪れた旅も良い思い出です。駐車場のすぐそばにある太平洋を見ながら食べるカップラーメンは格別でした。
そんな経験を通じて、「生きる場所に制限をもつ必要はないかもしれない。」と思うようになり、1年前に東京から諏訪に移住をしました。
もともと場所を限定せずに働ける仕事のため、東京に無理に住み続ける理由もなかったんです。
気がつけば、コロナ禍を経て、 2019年から描いていた漫画と同じような「縛られない生き方」を実践する人が増えてきたように感じます。
まずは雲平の旅を通して、何度失敗してもいいし、その分成長することを伝えていきたいですね。
そして、今度は雲平が成長する場面だけではなく、彼に感化されるつぐみの姿も描いてみたいです。バンライフや車中泊旅が昔と変わったように、年代ごとに価値観も変わってきているはず。
「今はこんな価値観もあるんだよ!」と雲平が教える役割を担えると思うんです。
また、リアルを描くことにこだわっているからこそ、もっと細部まで描き切りたいです。
実は、初めて雲平が都会を出て車中泊をする場面について、夜の暗さや都市部との違いを表せていなかったと反省しています。
バンライフ体験者として、見落としがちだけれども大切なことを伝えていきたいですね。
他にも、各登場人物の深堀をした話も描いてみたいです。
最近キャンピングカーショーに参加して可愛いクルマにも出逢えたので、描きたいアイディアが溢れてきました!
お話を伺い、高津さんの想いやこだわりを思い出しながら、もう一度わたカタを読み直しました。
すると、より登場人物の心情の揺れ動きを感じられ、まるでその場にいるようなあたたかな気持ちに。
今後、雲平やつぐみにどんな旅が待っているのか楽しみです!
東京都出身。10代から漫画家を志し、1999年に講談社MANGAOPEN奨励賞、2007年に講談社四季賞夏のコンテスト奨励賞を受賞。
2016年に「シャボンと猫売り」でデビューし、2019年にワニブックスより「渡り鳥とカタツムリ」の連載をスタート。
高津さんのTwitterはこちら。
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